HOME | 共同利用・共同研究拠点 | 共同研究成果 | ピロリ菌感染はトレフォイル因子2の発現をメチル化により抑止し,マウスとヒトの胃発がんを誘導する
豪州王立小児病院マードック小児研究所 Trevelyan R. Menheniott,ほか 金沢大学がん進展制御研究所 源 利成
Gastroenterology 139: 2005-27, 2010
Peterson AJ, Menheniott TR, O'Connor L, Walduck AK, Fox JG, Kawakami K, Minamoto T, Ong EK, Wang TC, Judd LM, Giraud AS.
トレフォイル因子群(TFF1~3)は三つ葉様の三重ループ構造を特徴とする消化管の分泌蛋白質で,粘膜の恒常性維持や損傷修復に作用するが,その発現調節の仕組みは明らかではない.TFF1の欠失は胃発がんを来たすことが知られている.TFF2の発現は胃がんで高頻度に消失しているが,そのメカニズムと発がんへの関与は解明されていない.本研究では,ヒトとgp130変異マウスのピロリ菌感染による慢性胃炎,腸上皮化生,腸型胃がんへの進行に伴いTFF2のプロモーターメチル化が亢進し,その発現低下が観察された.gp130変異マウスの詳細な解析から,ピロリ菌感染による慢性胃炎と胃粘膜増殖に伴いTff2メチル化が亢進し,発現が抑制されることを見出した.本研究はTFF2のエピジェネティック制御とピロリ菌による胃発がんの密接な関連を示し,TFF2が新たな胃がん抑制遺伝子であることを明らかにした.
図.胃発がん過程におけるTFF2のエピジェネティック制御による不活性化 A. TFF2は微細粘膜損傷の修復と軽度炎症の防止により胃の恒常性を維持し,近位側胃のガストリン(G)やソマトスタチン(S)の分泌制御とともに胃粘膜上皮の分化と胃がん抑制遺伝子(TFF1, GKN1/2)の発現を調節している. B. ピロリ菌感染に起因するメチル化によるTFF2の発現抑制の結果,胃粘膜の恒常状態における機能が損なわれ,胃発がんが誘導される. (Gastroenterology 139: 2005-27, 2010より)